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「TOMMY」に見える誤解と真実

これまでもコラムに書いてきましたとおり私が最強と考えるバンドのひとつが1人の賢明なるソングライターと3人の悪ガキを擁する愛すべきバンド「The Who」であります.もちろん言わなくても分かる人には分かることですが「賢明なるソングライター」というのはギター担当のピート・タウンゼントであり,3人の悪ガキとは狂ったドラマー・キース・ムーン,ひたすらマイクをぶん回しているロジャー・ダルトリー,静かに演奏してる振りして実はベースとは思えない無茶な演奏をしているジョン・エントウィッスルのことであります.良くも悪くも「ジジィになる前に死んでしまいたい」なんてことを歌詞にしておきながらメンバーの中で一番大人かつクリエイティブだったのがピートだったという皮肉とホントにガキのまま死んでしまったキースに対する奇妙な憧れを感じるバンドなのであります,私にとって.

そんなWhoの出世作と言うべき作品が今回コラムで取り上げる「TOMMY」であります.ミュージカルがお好きな方にとっては10年程前にトニー賞を取った作品でもあるので比較的演劇畑の方にとっても結構身近なアルバムではないでしょうか?また70年代にケン・ラッセルなる知るひとぞ知るイギリスのカルト映画監督によって映画化されてまして,エリック・クラプトンやティナ・ターナーが出演している結構豪華な映画なのですが,ちょっと精神的に疲れているときに観ると翌日の目覚めが悪くなること請け合いです(きわどすぎるよ,あの描写は).

オリジナルのアルバムが発表されたのが1969年であり,サイケデリックやフラワームーブメントなる風俗がロック界を席巻していたころのアルバムということになります.このアルバムはいわゆる「ロックオペラ」と呼ばれるものであり,まーもっともピートとマネジャーだったキット・ランバートの口からでまかせ的発想による産物なわけですが,トータルコンセプトアルバムのひとつの完成形といえるアルバムではないかと私は考えています.

「ロックオペラ」ですので当然大まかな粗筋があります.簡単に書きますと「三重苦の少年トミーがピンボールとの出会いによってヒーローになり,やがて堕落し,その絶望の淵から『何か』を掴む」というストーリーです.なんと,90分のアルバムを1行で語ってしまうという才能の持ち主です,私は.ちなみに専門用語でこういうのを「端折りすぎ」と申します.

今の私の仕事の立場からいうとちょっと「TOMMY」の設定はヤバイかなという気がしなくはありません.だってトミー君は幼い頃のトラウマによって「自閉症」で「三重苦」になってしまったという「かなり無理のある」設定になってますから.1969年ですからねぇ.イギリスでも自閉症に対しての理解が少なかったからなのかなぁとは思いますが… まぁ,1989年に再結成をした際に自閉症児のためのチャリティライブをしているので大目に見てあげたい心境ではございます.ちなみに90年代にトニー賞をとった「TOMMY」の設定知っている方いたら詳しく教えていただけません?ちょっと興味ありますので.

ま,前の段落はちょっとしたツッコミなんであんまり気にしないでね.で今回のコラムの題名である「誤解」というのは別に自閉症を誤って認識してるってことに対して付けている訳では決してございませんので.「TOMMY」に対する誤解っていうのは「三重苦」という設定から来る神秘性にあると思う訳であります.

三重苦と言うとどうしても「奇跡の人」ヘレン・ケラーを連想せずにはおれません.だってやっぱりあの戯曲とか読んでると「Water」のシーンは神秘性にあふれていると思うもん.実際にヘレン・ケラーの伝記を小学生のころ読んだけどなんか自分のいる世界とは違う世界にいた人みたいな印象持ったもん(当時はまだ障害を持った人と接する機会も少なかったしね).で,「TOMMY」における三重苦ってのは「奇跡の人」の三重苦ってのとは全く違うと思う訳よ.

演劇の「奇跡の人」の場合,当然ながら実在の人物を扱ったものであるからあくまで三重苦は「リアリティ」にあふれているわけ.そのリアリティさがヘレンの神秘性を生んでいる訳ですな.「TOMMY」の場合の三重苦ってのは「誰もが持つコンプレックス」の象徴として描かれている訳ね.だから神秘性ってのはピートとキット・ランバートが巧みに作ったレトリックに過ぎないと思うのです.もちろんそのレトリックが巧妙だからこそ素晴らしいアルバムとして今なお聞くたびに新鮮な発見があったりする訳ですが.

Whoというのは言ってみればイギリスの10代の心のシンボルみたいなイメージで私は捕らえているから(アルバム「Who's Next」の「BABA O'RILEY」の歌詞の中にある「Teenage waste land~10代の不毛地帯~」ってのからも感じるよね),あくまで「TOMMY」における三重苦ってのはさっきも書いた誰もが持つコンプレックスを極限まで突き詰めた結果出来上がってしまった設定なんですね.だから実は同じ「三重苦」っても「奇跡の人」とは全然違うってことが分かってもらえたかしら

で,「TOMMY」が興味深いのは突き詰めていくとコンプレックスを持った少年のサクセスストーリーとその堕落の話なんだけど,実は最近「TOMMY」ってピート自身のことなのかななんて考えるようになりましてね.当時飛ぶ鳥を落とす勢いのWhoやピート自身を「TOMMY」だと考えると結構面白い符合が見えてくるのだよ.例えば… 「Amazing Journey」なんかは「大人」になりつつあったピートのことみたいだし,「Cousin Kevin」は初期の契約に振り回されたWhoのようにも読み取れるし,名曲「Pinball Wizard」はコンプレックスの塊だったピートが自身のサクセスストリーに味付けしたような歌詞だしね(「The Acid Queen」「Fiddle About」なんかキースそのものじゃんというツッコミのひとつも入れたくなるしね).

と,大学時代からWhoを聴くようになった私の「TOMMY」論如何でしたでしょうか.「それはないやろ!」的ツッコミが多数寄せられそうな内容なんだけど,オリジナルアルバムを聴きながら考えた内容なのでした.

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