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電車とピンクの髪の男と老婆の話

昨日は最悪だった.一日中「何で生きてるんだろう?」という思いで体中が一杯になり,涙が止まらなくなった.死にたくなった.「明日になれば何とかなるかな?」そんなあてのないことだけを頼りに,酒を飲んで無理やり床についた.

いつの間か朝になっていた.時計を見れば朝の9時だった.昨日があんなんだったし病院に行こうか,それとも映画でも観に行って気分を変えようか,このまま寝てしまおうか,いろいろ考えたがとりあえず住道駅へと向かうことにした.

見慣れた駅に着いて,改札を通りホームへ向かう.ホームで電車を待っていると会社のIさんと会う.自分の立場を考えると気まずいもんだが,Iさんとは親しいし素直に話しが出来た.ピンクに染まった髪を見て驚いていた.Iさんはこれから横浜に向かうという.なんとなく会社のことが気になりはじめ,これ以上一緒に話すのは良くないなぁと思い,また,病院に行くには普通電車を使わなくてはならなかったので,快速に乗るIさんとはホームで別れた.

ラッシュアワーを過ぎた普通電車の中は人が少なくまばらに座っていた.快速の方はいつも混んでいるので,時間に余裕のあるときは普通を使うのが好きである.流れていく景色を眺めながら2駅ほど過ぎたところで,向かいに座っていた老婆がこっちの方にやってきた.

「ここは京橋ですか?」
老婆はそう聞いてきたので「いえ,さっきのは徳庵ですからまだ先ですよ」そう答えた.不思議なもんである.なにもこんなピンクの髪の男に尋ねるもんかねぇ,困っている人を助けるのは苦にならない方なので,老婆と話を続けた.

聞けば老婆は93歳になったという.そのわりにはえらい元気な人でだ.話は向こうのペースに巻き込まれ「京橋が来たら言うてな」,そう言われてしまった.病院へ行こうという考えはそこで吹っ飛んだ.病院に行くには京橋の1つ手前の鴫野で下りなければならないからである.

折角だからこのまま北新地まで行って映画でも観よう,そう腹に据えて老婆と話を続けた.ピンクの髪のことも聞いてきた.老婆はこれが私の髪ではなく,帽子だと思ったようだ.いくら訂正しようとしても聞いてもらえず,それがなんだか滑稽で私も老婆も笑い続けた.

やがて電車は京橋に着き,老婆は降りていった.ただなんでもないそんなことで何故か涙が出てきてしまう.今がうつの状態だからかもしれないが不思議なもんだ.でもいつもとは違う.意味のあるのかないのか分からない悲しさや寂しさで涙が出てきたのではない.こんなピンクの髪の男に話に来てくれた老婆.どうしようもない奴なのに話をしてくれた,なんかそのことに感動してしまった涙,だったのかもしれない….人に涙を出していることを見せないように帽子を深くかぶり,やがて改札を出て行く老婆を眼で追っていた.なにかいつもとは違う,すがすがしい涙だった.

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